■農作業中に両手失い、ゼロから絵をスタ−ト-4■
●風の丘 阿蘇大野勝彦美術館 画家 大野 勝彦 氏 1944年生 義手の指を動かすときには、肩ひじの力を使います。肩ひじの筋肉を動かしながら、指をコントロ−ルするんです。最初は、ぼろぼろ落とすこともありましたが、筆をつかむことは、集中力の訓練にもなります。指に全神経を集中させ、力の加減を調節しなければならないからです。 これは字を書いたり絵を描いたりするときだけでなく、日常生活でも重要なことなんです。例えば、喫茶店に入って、みんなでお茶を飲むとしますよね。私はカップの取っ手を義手の指でつかみ、口に持っていくのですが、こういうとき、本当に気を使います。 仮に、私がカップを落として、割ってしまっても、お店の人は「手がないんだから、仕方ない」と寛容に許してくれるかもしれません。でも、そのことによって、お店の中の雰囲気が一気に暗くなるのが、嫌なんです。せっかくの楽しい雰囲気が消え、私への同情一色になってしまう。そんなことだけは、絶対に避けたい。だから、物をつかむという、本来なら何ということもない動作も、真剣にならざるを得ないんです。 絵を本格的に勉強し、作品として少しずつ認められるようになると、学校など、さまざまな場で講演することが増え、出会いも生まれました。当時、熊本県立劇場の館長で「日常塾」を主宰していた鈴木健二先生(元NHKアナウンサ−)や長年、掃除哲学を実践してきた鍵山秀三郎先生(カ−用品大手、イエロ−ハット相談役)といった方々の知己も得ました。 そして、私も話し方や読書、はがき絵などの勉強会「やまびこ会」をはじめ、500人を超える仲間ができました。阿蘇の自然の中で、絵を描き続けるうち、自分の美術館をつくりたくなりました。保養施設のあった土地を熊本県から買取り、美術館にリニュ−アルしたのです。 美術館では、作品だけでなく、私の創作の現場も直接見ていただき、おいでになった方と、できる限りお話をしたいと心がけています。(おわり) |