■育てた森に育てられ■
●育てた森に育てられ 俳優・日本野鳥の会会長 柳生 博 氏 八ヶ岳のふもとに小さな家を建てて、もう31年たつんだ。周りの木を切ってまきにして、また木を植えた。1万本植えたと言ってるけど、もっとかな。日差しの届かないカラマツの人工林が、木漏れ日のあたる雑木林に変わったよ。 ここに来たのは役者として売れ始めて、バランスを失いかけたから。都会でいい暮らしをするには、競争に勝たないといけない。だんだん自分がより有利になることしか考えなくなるんだ。おれが、おれがって。 でも、野良仕事をしてごらんなさい。木を切りすぎたら、山菜を採りすぎたら、あとで自分が困る。自然の中では、一人勝ちしたら生きていけない。人間を含めた生き物がみんな機嫌よく暮らすには、って考えられるようになる。 たくさん木を植えたのは、かみさんを口説いた時の約束なんだ。「懐かしい風景の中で、一緒に死んでいこう」って。僕らにとって、それは光あふれる雑木林だ。そのために森を育てたつもりが、ほんとは森に家族が育まれていた。 季節が移り変わっても森が同じ姿をしているように、息子も孫も、野良仕事をする姿は笑っちゃうぐらい僕にそっくり。最後を迎えたら、高い所から鳥の目で、家族とこの森を眺めてみたい。田舎で暮らして、そんなことを考えているんだ。 |