■将たるものの器■
●将たるものの器 次世代DVDの規格争いは予想以上に早い決着であった。撤退側を単なる負け戦として切り捨て、敗軍の将を非難するのは適切ではない。むしろ、事業の不振が予想されるときに、経営トップが果たすべき役割を果たした好例と見るべきだろう。このトップは米国ウエスティングハウスの買収でも思い切った決断をしたように、攻めるべきは攻め、引くべきは引くという、将として本来の役割を果たしている。 この空白の十数年間において、我々はなんとも無様なトップばかり見てきた。問題の解決ではなく、先送りに腐心する醜い姿である。金融業界に多いパタ−ンであったが、日本企業に普遍的に観察される現象であった。この行動の結果が日本経済の停滞を呼び、その影響は今日でも完全に払拭できたわけではない。これは、内部昇進したサラリ−マン経営者で、調整能力にたけた人材が多いことの災いともいえよう。今回のケ−スはそんな閉塞感を吹き飛ばしてくれたと感じるのは私だけであろうか。 経営者であれ為政者であれ、今の日本に求められているのは「将たるものの器」である。それは「攻めるべきか、引くべきか」という情勢を見極め、明快な決断と行動の能力であり、それが間違っていたときは職を辞する潔さである。これはまだ道半ばということであろう。 (日本経済新聞「経済気象台」より掲載) ●撤退戦略 約300人の記者やアナリスとの前に立ったのは西田厚聡社長、ただ一人だった。東京・芝浦の東芝本社ビル39階で2月19日に開かれた次世代DVD「HD−DVD」事業からの撤退発表記者会見。司会者がすこし離れて控えていたが、すべての質疑を西田社長が一人でこなした。社長の脇を幹部が固める、他の多くの記者会見とは様子が異なっていた。 企業経営での撤退について、担当役員や幹部、前線の営業・生産部門は「もう少し努力させてほしい。業績は好転させられる」と言いがちで、「やめさせてくれ」とは言いにくい。西田社長は会見で「(社内で)いろいろな議論があるのは当たり前であり、そういう議論を経た上で最終決定した」と語った。撤退戦略は最終的にはトップが決断せざるを得ないものだ。 企業経営は「選択と集中」が必要な時代だ。自社が抱えるいろいろな事業部門の中から何を選び、何を捨てるかを決めることが、経営者の重要な仕事となった。ボトムアップの意見は「選んでくれ。捨てないでくれ」が多いだろう。それを冷徹に突き放して判断する資質がトップには求められている。 西田社長は毎朝、6時半から8時までの1時間半を一人、社長室で過ごす。その間、じっくりと経営戦略を考えるという。営業や生産、開発の現場をまわり、多くの意見を聞く一方で、決断の作業は孤独だ。 (朝日新聞補助線より掲載) ●関連記事リンク |