●卵さん、ありがとう●
●卵さん、ありがとう 女優 森 光 子 氏 尋常小学校を出て間もなく父も母も亡くなった。兄が戦死して妹と二人残された。青春は真っ暗な時代。生きていくため戦争中は戦地へ、戦後は進駐軍のキャンプへ出かけ、歌手として歌う日々だった。戦後は無一文になり、満足に食べられない。 「森みっちゃん、生きていたの」。そう言われたことが二度ある。一度は焼け跡に芸能事務所を訪ねたとき、もう一度は肺結核を治して放送局にうかがったとき。不思議なことに、どん詰まりになると救いの神が目の前に現われた。 私は卵を崇拝している。実家の割烹旅館にはいつも卵があり、それをご飯にかけさえすれば、ひもじさをしのげたからだ。それから何度となく卵に命を救われた。 卵さん、ありがとう。 |