●日本のお金持ち研究-2●

第2回
第1回

●日本のお金持研究 同志社大学経済学部教授 橘木 俊詔(たちばなき としあき) 氏

起業家や開業医のように組織に属するのではなく、個人で成功する人々が日本社会のお金持ちであることは、これからの日本にどのような影響を及ぼすのであろうか。今の若者たちが、「50歳まで競争を続けて役員になっても仕方がない」と考え、大企業に優秀な人材が集まらなくなれば、日本経済は現状維持すら難しいと思われる。医療に関しても今の水準を維持することは困難だと考えざるを得ない。

この問題の背景には、「理工系出身者が経営者になるケ−スが少ない」という日本企業の状況が少なからず影響を及ぼしていると考えられる。東京大学工学部電気工学科が定員割れを起こしたことは、理工系の不人気が大きな問題となっている象徴的な出来事だった。理工系を目指す学生の多くは将来の収入が期待できる医学部を目指し、そして美容整形や眼科、皮膚科を専攻しょうとしているのである。

日本経済が世界と渡り合えるようになったのは、そのベ−スに確実な「技術力」があったからではなかったか。その技術開発は知識や組織力によって支えられてきたはずである。しかし日本の技術者は、すばらしい車や電化製品を開発して世界に日本の技術力を知らしめても、組織の役員になるのは営業を経験して昇進競争に勝ち残った文系出身の人々である。こういった日本の組織の偏った伝統が、組織に属さない個人成功主義をまん延させる要因にもなっているように思われる。

「お金持ちが誰であるか」という研究によって、現在の日本経済や社会の状況、そして、今後を占うべくさまざまな側面が浮き彫りになった。現状のままで良しとするのか、それとも何かを改善すべきなのであろうか。一つ大きな論点は、「個人成功主義か、それとも組織力をもう一度見直すべきなのか」であると考える。どういった社会が望ましいのか………その答えは私たち一人ひとりの胸のうちにある。(おわり)

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