さよなら アンリ・サルバド−ル

フランスの国民的な歌手アンリ・サルバド−ル氏が2月に動脈瘤破裂のためパリの自宅で亡くなった。90歳。昨年9月に日本で、12月にはパリで現役最後を告げるコンサ−トを開いた。

日本での引退公演での彼は……。ステ−ジにあがる時の足元は、ゆっくりゆっくりと、側らに誰か付き添いがいましたが、用意された赤ワインを一口、歌いだした歌声はCDで聴いていた美しさそのまま。

また、パリの行きつけのレストランでのこと。何せ、国民的な歌手である。レストランの客はみんな顔を知っている。次々と求められる握手に、偉ぶるところ一つなく応じ、談笑する。サ−ビス精神は元々旺盛で、かってテレビでちょんまげを結ってサムライ姿になったこともあるほど。この夜も次々とギャグを飛ばし、店内を爆笑に包んでいた。音楽が与えるイメ−ジそのものの、底抜けに明るく気さくな人柄だった。

仏領ギニアに生まれ、先住民出身の母が歌う民謡を聴きながら育った。7歳の時に家族でパリに出て、15歳でジャズと出会って音楽に開眼。独学でギタ−を学び、その後のブラジル滞在でボサノバの要素も取り入れた。哀愁漂う歌が多いシャンソンの中で、甘美で平和な独自の音楽世界を築いた。シラク前大統領は「生きる喜びを体現した素晴らしい人だった。彼の歌と笑い声は皆の記憶に残るでしょう」とのメッセ−ジを寄せた。

彼の生前の言葉。
・この年齢になって悩みなんか何もないよ。人生は本当に素晴らしい。
・人生で“今”という瞬間が一番楽しい、そう思ってずっと生きてきた。常に新しい出逢いや発見がある。この年になっても、次にどんな素晴らしいことが私を待ち受けているのか毎日ワクワクしているんだ。
・僕は絶対に振り返らないんだ。僕はいつも“明日”にいるんだ。過去が嫌いなんだ!過去は死だね。音楽は常に進化する。僕は作曲家だけど、僕の時代に存在していた曲よりも、今の曲のほうが優れている。毎日、すごい数の曲が生まれているけど、新しいメロディを見つけることって、ミラクルなんだ。音楽は全て。僕の人生の全てだよ。だから、いつも音楽のことを考えているのさ。

甘い歌声と創作意欲は最後まで衰えなかった。死の前日も、次の曲をロサンゼルスで録音すると夫人に話していた。さよならアンリ・サルバドール。

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