緑の中に暮らす意味

ラトヴィア スィグルダ
ラトヴィア スィグルダ

●緑の中に暮らす意味 作家 椎名  誠 氏

緑の中に暮らす意味というのは、そこにしか住んだことのない人にはおそらく実感できないでしょう。世界各地の不便なところばかりを巡った僕の経験から言うと、恵まれた自然の中にいる人たちは、その恵まれたものに気づかないという世界共通の公式があります。ネパ−ルのシェルパ族は満天の星空をしみじみと眺めることはしません。モンゴルの遊放民は家畜の食べる草には興味を示しますが、花の美しさに目を向ける人は少ない。日本はどうでしょう。

日本は四方を海に囲まれた海洋国であると同時に、森林が7割以上を占める山国です。4万5千本もの河川があり、上流で水をくめばそれがミネラルウォ−タ−という恵まれた国です。なのに、川の蛇行をまっすぐにしたり、河口堰(せき)を造ったりしている。森林も豊富ですが、どんどん伐採して、砂防ダムを造っている。木の文明、緑の文明に囲まれた世界でも有数の恵まれた国であり、最もうらやましがられる立場にいる国なのにその自覚が無い。世界には全く緑の無い地域もあるんですから。アラスカのポイントバロ−という所に行った時、村に木が生えていました。そばに寄ってみるとプラスチックで作ったヤシの木です。もう切ないくらいにやけくそです。やはり樹木のある生活は人間にとっての憧(あこが)れなんですね。

川や森は日本の財産なのに、豊富すぎるから粗末に扱っています。その代わり自動販売機は何百万台とあって夜もギラギラと明るい。先日、沖縄の人口5人の島に行きましたが、やっぱり自動販売機がありました。この国を美しい国と言われる人もいますが、僕は幼稚なマンガの国だと思います。いろいろな意味で文明病に侵されているのでしょう。ただ、文明化の進んだ国でも、賢いところはしっかり緑を都市に残している。また、残そうと努力をしています。

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